Qualified EDAs

失禁体験装置:尿失禁感覚再現装置の開発とその応用

亀岡嵩幸, 宮上昌大, 浅井晴貴, 高木省吾, 荒生太一, 市川裕駿, 日下雅博, 大下雅昭

心をどう動かしたいか

「開放感」「羞恥心」「背徳感」「人に語りたくなる(ナラティブ創出)」

アプローチ

尿失禁という日常生活を送っている上で通常であれば出会えない体験を提供する。尿失禁体験をする過程で体験者は徐々に尿意が高まる感覚を得ることで、この後に訪れるであろう感覚への期待と興奮、わずかな恐怖を高め、股間部へ提示される生暖かさに羞恥と解放感、そしてわずかな快感を得てしまったことへの背徳感を覚える。そしてこの一連の体験は体験者自身のみならず体験の一部始終を見る観衆の目によって成り立ち、観衆にも得も言えぬ興味、嫌悪、興奮を感じてもらえるだろう。

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講評

本研究はまさにQualification制度でないと評価のしにくいタイプの研究であると思います。EDAでは失禁体験装置の面白さを適切に説明できており、実際に体験することで確認できました。また、EDAでは観衆の心の動きも言及していますが、まったくその通りの観衆の反応がデモで観察でき、主張が妥当であることを確認できました。「人に語りたくなる(ナラティブ創出)」については観衆の目に関連するキーワードとして残していますが別の言葉、例えば「衆目との相互作用」などの方が適切かもしれません。


幸福感を提供するVR画像検索システム GaZone

杉本翔, 岡部稜, 喜田将生, 宮森恒

心をどう動かしたいか

「幸福感」「所有感」

アプローチ

非現実的な空間の中で自分の嗜好に合った大量の画像を出現させ,自由自在に周囲に配置して閲覧することが可能となるVRシステムを提供する. 提案システムでは,VR環境で自分の好きな画像群に重力を無視して周囲を囲まれる非現実感を味わうことができる.さらに,画像は閲覧するだけでなく,掴むという直感的な操作で拡大縮小や配置の変更が可能である.これにより,ただ単にWeb上の画像を閲覧しているだけであるにもかかわらず,まるで実際に手元にあるような所有感を味わうことができる. この非現実感と所有感により,ユーザは幸福感を味わうことができる.

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講評

EDAで述べられている「幸福感」については、アプローチで述べられているとおり好きな画像に囲まれることで実現できていることを確認しました。「所有感」は審査員によって意見が分かれましたが、短期的な体験で画像の配置などまではしなかったことが要因とも考えられます。


既存ディジタルゲームへの入力をプログラミングするためのミドルウェアの研究

土井伸洋, 栗原一貴

心をどう動かしたいか

「作ってみたくなる」

アプローチ

ある程度のITスキルと創造意欲をもつような、主にハッカソンイベント等に参加するようなエンジニア層を想定ユーザとし,アドホックに簡便なプログラミングを行うことで既存ゲームへの入力方法改変システム開発を支援するミドルウェアが用意される.これは可読性の高いゲーム入力制御情報の表現形式であるDSL4GC,Node-REDを用いたヴィジュアルプログラミングによる入力方法変換ロジックの記述,およびハードウェアとソフトウェア両面による入力エミュレーションからなる.
提案手法により,既存のゲームに対し入力方法が様々に変更されており,新たなエンタテインメント価値の発掘,あるいは非ゲーム的目的を達成が体験できるコンテンツが容易に構成可能になる.これには(1)多様なデバイス・情報源をゲームへの入力として用いたもの,(2)それらを既存の入力手法と共存させたもの,(3)複数のゲームを同時に扱ったもの,(4)ゲームの外の世界に便益があるようにしたもの(ゲーミフィケーション),などが考えられる.
具体的な作例として,(1)についてはスマートフォン、micro:bit, m5stack, sony
MESHタグなどに搭載されている加速度センサ,タッチセンサ等に連動して,より多様な身体動作や他者との協調作業に基づきスーパマリオブラザーズをプレイできるコンテンツ,(2)については通常のコントローラ入力に加えてAmazon Echoなどのスマートスピーカデバイスを用いることで音声による抽象的な指示入力を可能にした格闘ゲームなどが提供される.(3)については,一つのコントローラの入力によりテトリスとぷよぷよを同時にプレイするコンテンツなどが提供される.(4)については,肩たたきの動作をウェアラブルセンサで検知し,それを音楽ゲームの入力にすることで家族等と楽しくコミュニケーションを図れるコンテンツなどが提供される.

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講評

ミドルウェアとしては何をどのように作ることができるかといった機能や性能で有用性を示すのが一般的ですが、このEDAではミドルウェアが提供する面白さに着目して明確に説明しています。一般的にミドルウェア/ツールキット系の研究は「作ってみたくなる」を狙ったものであり、どのような仕掛けで創作意欲をかき立てるのか、どのような作品を見込むののか、具体的にどのような作品ができあがったのか、といった説明を本研究と同様に適用できると思います。


Facelot: 顔検出と顔属性をエントリーとしたアドホックな抽選システム

金子翔麻, 渡邊恵太

心をどう動かしたいか

「場の盛り上がり」「一体感」

アプローチ

表情によって選ばれやすさが変わる抽選システムを提供する.参加者は選ばれるために,撮影のタイミングでお題の表情を作るため,たとえば笑顔といった表情を作っているうちに内面にポジティブな影響を与えることができる.抽選時はドラムロール音とともに画像上の顔にスポットライトをランダムで当てる演出が入り,参加者全体の期待感を高める.決定時には選出された人の顔をズームアップすることで,その人の表情自体がコンテンツとなり,参加者全体の笑いを誘発し,場の盛り上がりと一体感を作りだす.結婚式の二次会での抽選会といった大勢がいる場面や家族会議で空気感がシリアスになってしまった場面などで,全体の空気感を一気にポジティブに変えることができる.

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講評

抽選アプリとしての機能ではなく、表情を利用することの効用を説明したEDAとなっています。論文には記載されていませんが実際に使用した例を交えてデモ発表時に説明されており、Qualification委員会でEDAが妥当であることを確認しました。


Ball in Bowl: ボールの中でボウルを転がすそこはかとないコンテンツ

渡邊桃吾, 片寄晴弘

心をどう動かしたいか

「そこはかとない」エンタテイメント性

アプローチ

無限プチプチやハンドスピナーには何故かその動作を続けてしまう魅力がある。ここでは、そのような状況下での心の状態を「そこはかとない」感覚と名付ける。「そこはかとない」感覚をもたらすためには、使用者に作業に対する複雑な思考や過度の負担を求めないこと、繰り返し動作を妨げずかつ不快感のない適切なフィードバックがあること、繰り返し動作に関するアフォーダンスデザインがなされていることが要件だと考える。使用者が無心で「繰り返し動作」を行うことで、結果として普段の思考から解放されるということが「そこはかとない」エンタテイメント性の本質であると考える。現代では、多くの人が複雑な仕事や人間関係を円滑に運ぶことを強いられており、普段の思考の中でストレスを感じる原因になっている。ストレスから逃れる手段をデジタルインタラクティブエンタテイメントに求める人は一定数存在するが、例えば、デジタルインタラクティブエンタテイメントの一つであるデジタルゲームの多くは、使用者に複雑な思考や過度の負担を求めるもので、「そこはかとない」感覚をもたらす要件を満たさない。他のデジタルインタラクティブエンタテイメントの例としてデジタルな手法を用いたインタラクティブアートが挙げられるが、ほとんどが一時の芸術的な感動を呼び起こすことにフォーカスしており、繰り返し動作に関するアフォーダンスがデザインされているものは少ない。
本EDA では、「そこはかとない」感覚を提供するデジタルインタラクティブエンタテイメントとして、ボウルの中でビー玉を転がし、その状況を映像と音でフィードバックするスマートフォンアプリケーションを提案する。このアプリケーションでは、ボウルに複数のビー玉をいれボウルを動かすことによりビー玉が転がり音が発生するという状況を、物理計算を用いて再現する。ボウルはスマートフォンの加速度センサを利用して操作する。ビー玉を転がす動作は人によって多少の習熟を必要とするものの、加速度による操作は直感的で、使用者に複雑な思考や過度の負担を求めない。また、操作に対して適切なフィードバックが得られ、その操作方法と緩やかに減衰していくビー玉の転がりによって繰り返し動作に関するアフォーダンスがデザインされている。したがって、本アプリケーションを使用することにより「そこはかとない」感覚を感じることができる。「そこはかとない」感覚を提供する為の本質的な事項は、実空間とアプリケーションで共通である。触覚の提供という点では実空間でのプレイに分がある一方で、アプリケーションには、一旦インストールしてしまえば立上げに時間がかからない、飛び散ったビー玉の回収の手間を軽減できる、気が向いた時にすぐにプレイできるという特長がある。

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講評

つい繰り返してしまう系の遊びの面白さについて「そこはかとない」感覚として説明したEDAとなっています。デモで実演されたアプリは快感が不足しているという意見が委員から出ましたが、作り込みにより改善が見込まれます。


UPP (Unreal Prank Painter): 悪戯の楽しみに着目した落書きコンテンツ

安東俊之介, 片寄晴弘

心をどう動かしたいか

「背徳感」「自己顕示欲求」「ナラティブ創出」

アプローチ

GPS, パターン照合技術、平面推定技術 (PTAM) を利用し、スマートフォン、もしくは、タブレット上で動作するARによる落書きコンテンツを提供する。本コンテンツでは落書きを実施すること、その落書きを第三者が閲覧することができる。落書きの書き手は、誰かに見られるかもしれないという感情をもちながらARの「落書き」を現実空間上に残す。一方で、閲覧者は現実の空間に出向くことで、その場所固有の「空気感」を感じつつ、落書きを鑑賞する。
落書きを実施する際には、その場に赴く必要があり、また描いた落書きは自分の意志で削除することはできない。これによって、現実の対象へ「取り返しのつかない落書き」を行うという意識を想起させる。実施された落書きは容易に他者から閲覧される為、描く落書きの内容によっては、プレイヤはその場所・対象固有の社会的特性から、他の閲覧者の反応を予測し「背徳感」を味わう。
一方で落書きを閲覧する際には、場所・対象固有の社会的特性があることで落書きの持つメッセージが明確化され、考察することが容易になる。加えて、落書きが実施者の意思によってその場所・内容が決定されることは、閲覧者にとっては落書きとの予想できない、偶発的な遭遇を演出し、体験に独自性と意外性を持たせる。さらに、多数の人が容易に閲覧できる環境は、落書きの多人数への共有が極めて容易である。①強いメッセージ性を持った落書きが、②閲覧者に偶発的で意外な出来事として提供され、③その事象について共有するハードルが低い、という状態を満たすことで、閲覧者の落書きに対してのコメント・問題提起を生み「ナラティブ創出」の特性を実現する。同時に、この状態は、実施者の主義主張の誇示、そして閲覧者によるその主張への更なる意見やコメントの返答、議論を生み、自己表現の欲求である「自己顕示欲求」を創出する側面を持つ。

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講評

AR落書きシステムのアイデア自体は既存のものですが、そのエンタテインメント性について考察・説明するEDAとなっています。社会性から心の動きを生じさせることに着目していることが特徴的です。「ナラティブ創出」についてはまとめページでも触れていますが、このシステムに関しては直接的な心の動きに該当すると判断しました。


凸回転体の運動を利用して音生成を行うインタラクティブシステム

井川佑馬, 松浦昭洋

心をどう動かしたいか

「操作感→達成感」「持続性→安心感」「終焉→儚さ」「動きと視聴覚の同期性」

アプローチ

卵形や楕円体を含む凸回転体をディスプレイ上でプレイフルに回転操作するインタラクティブシステムを提案する。高い対称性をもつ質のよい凸回転体は、水平状態での回転(スピン)や垂直に立てての転がり(ロール)、そしてそのバリエーションなど、独自かつ高い運動性をもつ。それを人が巧みな操作により実現することで、独楽やハンドスピナーと同様の達成感、回り続けている状態を見ることによる安定感・安心感・解脱感(煩悩を一時的に無にする感覚)、さらに回転が終わるときの儚さ・寂しい余韻を有している。提案システムは、これらの感覚を、凸回転体の動きに同期した音と映像で強化している。ターゲットユーザとしては、凸回転体のプレイフルな操作を自身の身体で実践し、巧みな操作やコンテンツも含めたゲーム性に挑戦する意欲の高い幼年から若年層(5~30歳程度)を主として想定しているが、本システムにより訴えかけたい要素は、凸回転体という物体の物理的な運動を基にしており、年齢・性別・人種等にさほどよらない普遍的なものでもあるため、より広く幅広い世代・対象も想定している。

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講評

実物を体験しないと実感しにくい面白さを説明しているEDAです。実験での評価が難しい、Qualification制度に適した内容の研究の一つであると思います。