Qualificationまとめ

EC2018 Qualification企画委員長 水口充(京産大)

今回、Qualification試行のアナウンスがCFPが出た直後であり、また説明が不十分であったにも関わらず、ロング発表3件、ノート発表5件、デモ発表10件の計18件にQualificationを申請頂きました。厚く感謝いたします。以下、総括として今回のQualificationの審査過程と結果をご報告します。なお募集時の情報についてはこちらを御覧ください。

事前審査

申請のあった投稿につきましては、事前にEDA、論文、ビデオを委員会でチェックし、シンポジウムでの本発表時に確認したいことを共有ノートシステムScrapbox上で意見交換しました。

この過程で複数の投稿に共通して指摘されたことの1つに、発表内容がQualificationに適しているか、という点がありました。すなわち、新しい体験を可能にする装置を作成したという研究内容について、EDAとしては面白さを説明しているものの、論文では装置の性能評価や効果を検証しているようなパタンです。これは、論文は従来の書き方(評価実験に基づく有用性の主張方法)に即したためと思われますが、新しい装置を提案するタイプの研究であればこのような従来通りの研究の進め方で特に問題はないでしょうし、むしろそのように進めるべきであると考えます。Qualificationは評価実験が困難であったり評価実験がそぐわないような、新しい面白さそのものを扱うような、いわば作品系の研究を主に対象とします(EC2018WebサイトのQualification試行の案内で記載したとおりです)。もちろん、このような新しい装置を使ってエンタテインメント作品を作ったというような内容になればQualificationの対象となると考えます。研究の段階に応じて主張するポイントを定め、適切な有用性の主張方法をご検討ください。

EDAに関しては、「心をどう動かしたいか」の記載方法が議論になりました。この項目につきましてはキーワード的に記入し、その内容をアプローチで説明することを想定していましたが、幾つかの投稿では説明文的に記載されていました。この点につきましては、初めての取り組みであったことや記入例が少なかったことにより、書き方が分かりにくかったためと思います。EC分野の知見の蓄積として研究事例の整理に活用するという思惑もありますので、該当するEDAにつきましては記載案を委員会より提示させて頂きます。

「心をどう動かしたいか」の項目に関してはもう一点、「人に語りたくなる(ナラティブ創出)」が問題になりました。これはEDAの記入例2つともに含めてしまったこともあって、同様に記載された投稿も多くありました。しかし「人に語りたくなる」という要素は心を動かすことに関して第一義的ではなく、心が動いた(楽しんだ)結果引き起こされる副次的効果と見做すのが妥当なケースが往々にしてあります。「人に語りたくなる」は、人に語りたくなるという心の動きを直接引き起こす仕組みの提案でないかぎりは除外し、遠因的でなものではなく、そのことをサポートする具体的な工夫や説明を伴ったものを想定します。その観点から、今回、応募いただいたものの大半は該当しないと判断させていただきました。

また、「驚き」につきましては心を動かすための原動力、「共感」「没入感」「世界観」は心を動かすための設計と捉えるのが適切であると考えます(詳細はQualificationオーガナイズドセッション用論文「エンタテインメントコンピューティング研究における価値基準の枠組みの提案」3.4, 3.5節※をご覧ください)。これらにつきましても、「心をどう動かしたいか」の対象からは外すのがよいと考えます。

※記載ミスのため3.4, 3.5となっていますが正しくは3.3.2, 3.3.3のつもりでした。

ただし、以上の「人に語りたくなる」「驚き」「共感」「没入感」「世界観」といった要素はエンタテインメントにおいて重要な役割を持っており、これらはアプローチに含めて説明するのが良いと考えます。さらに、単に「人に語りたくなる」だけではなく、どのような要素を人に語る(体験を共有・伝達する)ことでどのようなエンタテインメント性が生まれるのか、というように具体的に説明頂けると説得力が増すことでしょう。これらの要素の扱いについてはまだ多くの議論を要するでしょうし、これら以外にも扱いを検討するべき要素もあるでしょう。今後コミュニティ全体で議論を進めさせてください。

もう1点、EDAに関する重要な点として、対象者が書かれていないことが指摘されました。これはEDAのフォーマットに含めていなかったことが主な原因です。EC研究においては蓼食う虫も好き好き問題、すなわちエンタテインメントにおいては万人が同じように楽しめる必要はないという特徴のため評価が難しいという問題があります。提案手法がリーチするのは少数の人々であっても、心を動かす仕組みとして新規性・有用性が認められるのであれば研究としては有用な知見です。このため、EDAのアプローチでは想定ユーザのプロファイルを記載するべきでしょう(もちろん、万人受けを狙う研究であればそう記載すればよいでしょう)。プロファイルとしては、年齢層、習熟度、性格、など様々な書き方が考えられますが、まだ事例が少なく、どのように書くべきかという標準はまだありません。まずは自由に提案してもらい、議論を進めたいと考えています。

デモ発表時の審査

以上の予備審査を踏まえて、シンポジウム当日ではQualification委員が発表を聴講、デモを巡回し、発表者と議論させて頂きました。

事前審査時に幾つかの発表については、実際に体験して確認したい、というコメントが付されていました。特に触覚等を提示するVRや実物体とのインタラクションに関する発表は体験してみて初めて、得られるユーザ体験やシステム構成の妥当性が確認できます。例えば「失禁体験装置:尿失禁感覚再現装置の開発とその応用」で与えられる感覚の完成度は文章や映像からは分かりません。これを実験的に評価しようとすると温度変化を測定して本当の失禁時と比較するなどするのでしょうし、アンケート調査であれば体験者に感覚のリアルさを質問するのでしょう。しかし、エンタテインメントの効果という観点では、ある程度のリアリティが達成できていれば十分とも言え(場合によっては誇張も必要でしょう)、リアリティの検証よりもエンタテインメントの効果の検証・議論に注力する方が有意義です。これはQualification制度の趣旨のとおりであり、担当委員は十分なリアリティを感じることができるかといった妥当性を確認する作業を行いました。さらに、EDAでは「この一連の体験は体験者自身のみならず体験の一部始終を見る観衆の目によって成り立ち、観衆にも得も言えぬ興味、嫌悪、興奮を感じてもらえるだろう。」と述べていましたが、まったくその通りの観衆の反応がデモで観察でき、主張が妥当であることを確認できました。

一方で、映像系の発表において、論文とビデオから読み取れる予想を上回る効果を確認できたケースもありました。例えば「幸福感を提供するVR画像検索システム GaZone」での検索結果の画像に囲まれることで幸福感を感じるという体験はビデオからもある程度は予測可能ですが、多くの委員が実際に体験して評価を大きく変えていました。この研究においても従来であればアンケート調査で「幸福感を感じましたか」などの質問をして評価するところです。しかし、そのような評価結果があっても査読者がどこまで納得できるかは疑問があります。実物を体験することが審査上重要な過程であることを再確認しました。

EDAの書き方が面白さをうまく表現できていないケースや著者自身が気付いていなかった面白さが委員によって指摘されるケースもありました。

例えば「既存ディジタルゲームへの入力をプログラミングするためのミドルウェアの研究」はミドルウェア自体の完成度、汎用性が高く、特にQualification制度でなくても有用性が主張できるのでは、という事前の意見がありました。また「心をどう動かしたいか 」の項目には「既存ゲームへの入力をプログラミングできることによってゲームのエンタテインメント価値は多様に変容・拡張させることができるという気づきをもたらす」「自分も既存ゲームへの入力をプログラミングしたコンテンツを作ることが可能なように感じさせる」「自分も既存ゲームへの入力をプログラミングしたコンテンツを作ることが可能なように感じさせる」と説明的に記載されていたので、前述の通りキーワード的に表現するべきとの事前コメントがありました。これらを踏まえてデモ発表時に著者にヒアリングし、一言で表すと「作りたくなる」というキーワードを得ることができました。また、デモでは即興的に机をタッチセンサー化したコントローラを作成していて、デモ体験者は「作りたくなる」意欲を刺激されていることを確認できました。

「凸回転体の運動を利用して音生成を行うインタラクティブシステム」では「玩ぶこと自体が既に楽しい、というSense of Wonder」 「形と動きと音のもたらす新たな喜び」 という心の動かし方を提唱していました。事前審査ではハンドスピナーのようなやみつき感は予想できたものの映像が無かったため確証が持てませんでしたが、デモでは多くの委員が楽しんでいました。この楽しさは説明が難しいですが、独楽のような回転自体が一種の安定感・安心感といった感情を引き起こすこと、および凸回転体の形状や重量によって回し方に技巧が入る余地があり色々な回し方を楽しむことができることが挙げられると思います。提案システムは回転に合わせたAVエフェクトを付与することで、これらの楽しみ方を強調できていました。

これらはQualificationの審査過程で、著者と共同してEDAをより良くすることができた事例です。他にも、現段階の実装や主張では不十分であっても、今後の研究の方向性について議論することができた発表が多くありました。Qualificationを単なる審査制度に留めず、分野全体で研究を支援する制度として運用していきたいと考えています。

以上のようにQualification制度は、デモを通じて文章や映像だけでは伝わらないエンタテインメント性を確認することができ、またエンタテインメント性の主張をより良くするための仕組みとして機能しました。

一方、現状のQualification制度で予見されている問題の一つに、中長期にわたる評価には対応できない点が挙げられます。デモ発表での審査は時間が限られていることから、実体験できたとしても瞬間的になりがちです。経験豊富な審査員は中長期的な効果を予見することもある程度は可能でしょうが、実際に体験して初めて理解できたエンタテインメント性もあったことからしても万全とは言えません。この問題は解決困難ですが、著者がEDAでうまく説明することや、デモ審査のプロセスを改善することで対応を図りたいと思います。

結果と今後

Qualificationの結果、今回は2件につきましてはほぼそのままでOK、5件につきましてはEDAに修正を加えることでOKとします。なお、今回NGとなった発表につきましては、Qualification制度としては、ということであって研究内容そのものを評価した結果ではないことにご注意ください。従来通りの性能評価等で問題なく論文化可能な研究も含まれています。現段階では作品などでエンタテインメント性を体験できるようになっていない研究につきましては、今回のフィードバックが今後の展開の参考になれば幸いです。

OKとなったEDAは、Qualified EDAのページにて掲載のとおりです。

Qualificationの結果は、情報処理学会論文誌エンタテインメントコンピューティング特集(2019年1月21日投稿締切予定)での投稿時の査読に反映いたします。すなわち、OKとなった論文が同特集に投稿されました際には、有用性に関しては確認済みとして扱います。EDAの記述内容を論文自体に盛り込み、実現するエンタテインメント性をストレートに主張ください。もちろん、論文単体でも有用性や信頼性を明らかにするための根拠、特にデモ等での体験者の反応の観察や利用事例等は記載するのが良いでしょう。アーカイブ用のビデオも併せて投稿ください。今回NGとなった論文につきましても従来の特別エディタ制度もありますので奮って投稿ください。

今回のQualification試行につきましては予想を上回る効果を得ることができました。ブラッシュアップを図り、来年度以降の継続運用を目指したいと思います。

謝辞

今回のQualification試行につきまして、急な提案にもかかわらず実施を受け入れてくださったエンタテインメントコンピューティングシンポジウム2018運営委員会の皆様、論文誌特集の申請では多大な心労をおかけした小坂崇之先生、何をするのかもよく分からないままQualification委員を引き受けてくださった皆様、なにより発表募集にいきなり案内されたにもかかわらず興味を持って頂き申請くださった投稿者の皆様、ことの成り行きを見守りつつ有用な御意見を頂いた皆様、とにかくエンタテインメントコンピューティングに関わるすべての皆様に感謝いたします。

EC2018 Qualification企画委員長
水口充(京産大)

Qualification委員(五十音順)
稲見昌彦(東大)
井村誠孝(関学)
片寄晴弘(関学)
倉本到(阪大)
栗原一貴(津田塾大)
小坂崇之(神奈川工大)
坂本大介(北大)
園山隆輔(TDF)
寺田努(神戸大)
野嶋琢也(電通大)
長谷川晶一(東工大)
福地健太郎(明治大)
簗瀬洋平(Unityテクノロジーズジャパン合同会社)